前回の続き。
攻方が打った歩を直ちに同玉と取るパターンを考えよう。
例えば下図で、持駒の歩を王手の連続ですべて捨てることはできるだろうか。
もちろんできない。「12歩、同玉」で1枚は捨てられるが、最早王手を掛けることができなくなる。
「12歩、同玉」の2手で玉の位置が変わるのがいけないのだ。前回扱った筒見作では、「13歩、21玉、12歩成、同玉」の4手を行う前後で盤面の配置は同じだった。
上図でもし仮に、12玉を11へ移動させる何らかの仕組み(F)があったとすれば、
12歩、同玉、(F)、12歩、同玉、(F)、12歩……
のように、繰り返し手順で歩を捨て続けることができる。
ある手順を繰り返して歩を捨て続けるためには、玉を元の位置に戻す仕組みが必要不可欠であり、その仕組みに工夫のし甲斐がある。
いくつか作品を見ていこう。
次の作品は、フェアリー詰将棋データベースで確認した限りでは最も古い「歩大量消費型の協力自玉詰」のようだ(ただし目視でチェックしたので違っていたらすみません)。
すべての駒が使用されている。目的は98の攻方玉を詰ますこと。
少し観察すると、受方玉の通れるルートが限られていることに気づくだろう。受方玉が到達できるマスを赤く塗ると下図のようになる。
何はともあれ、まずは49金、29玉、39金、18玉、29金……のように玉を追うしかない。65玉まで追って下図。
55金に74玉か66玉かを選べる。
74玉は収束用のルート。55金、74玉、65金、83玉(または84玉(非限定))、74金、93玉、84金、同角(下図)という手順が用意されている。
もし上図で持駒の歩がなければ合駒ができないので詰み。これで持駒の歩を捨てる動機を得た。
まずは74玉ではなく66玉として金で追い続ける。49玉まで追ったら、59金に38玉とする(下図)。
玉を金で追いかけて一周した。初形と上図を比較すると、受方玉の位置が39から38に変わったことが分かる。他に違いはない。
上図では「39歩、同玉」として1歩捨てることができるが、39玉型になると次の歩をすぐには打ち捨てることができない。しかし、玉を金で追って一周して戻ってくれば、38玉型に戻すことができ、39歩が打てる。
したがって、一周して戻ってくる手順を(F)と書くことにすれば、
39歩、同玉、(F)、39歩、同玉、(F)、39歩、……
のように歩を捨て続けることができるのだ。
そして最後の歩を 39歩、同玉 と捨て、65玉→74玉のルートを選んで収束となる。
1周で1枚の歩を捨てる作品。歩の消去のために玉が移動した範囲を矢印で示すと下図のようになる。
周回ルートは一方通行になっていることが分かる。そして「39歩、同玉」の2手がこのサーキットに組み込まれている。
配置について軽く確認しておこう。もし攻方14歩がなければ、例えば16玉に対して「17歩、15玉、16歩、同玉」の4手を繰り返して短手数で歩を捨てることができてしまう。攻方63歩も同様の意味。39歩でのみ歩を打ち捨てられるようにする必要があるわけだ。
次回も「歩打、同玉、(F)……」のタイプの作品を見ていこう。